違和感を抱えたまま働き続けた日々
――まずは、これまでの経歴から教えてください。
私は、秋田県の男鹿半島という港町の出身です。高校卒業と同時に家庭を支える立場になり、進学ではなく「働く」という選択をしました。正直、選んだというよりは、それしか選択肢がなかったという感覚に近いかもしれません。
東京で働き始めてからは、とにかく必死でした。生活を守るために働くというのは、ある意味で迷いがない反面、自分が何をしたいのかを考える余裕もない状態でしたね。
天職だったはずが…不動産営業での「違和感」
――不動産業界にはどんな経緯で入ったんですか?
自分がマンションを買ったときの営業の方がすごく楽しそうで、「こんな仕事があるんだ」と思ったのがきっかけです。実際にやってみたら面白くて、成果も出るし収入も上がる。「これは天職だ」と思っていました。
――それでも転職した理由は?
評価制度への違和感ですね。どれだけ個人成績が良くても、店舗目標が未達だとボーナスはほとんど出ない。一方で働き方はハードで、家庭とのバランスも崩れていきました。
大手企業でも消えなかった「違和感」
――その後、大手企業に転職していますね。
はい、マンション管理会社に入りました。実績も増えて楽しく仕事はしておりましたが、やはり違和感は消えなかったですね。
——どのような点に違和感を?
例えば、大規模修繕工事のとき。自社受注を最優先に対応していて、それが「優秀な人の仕事」だとされていたりして……。「これって本当にお客様のためになっているのか?」と感じました。
自分が「囲い込みの被害者」になった
——「違和感」について、その後、決定的な出来事があったそうですね。
自宅マンションを売却したときのことです。当時勤めていた会社のグループ会社に仲介を依頼したのですが、希望価格では売れず、「このままでは難しい」と言われて、次の住まいの資金面の関係から最終的に買い取りになりました。ところが、3か月後。その家は私が手放した価格を大きく上回る金額で仲介を依頼した会社がリフォーム再販していたんです。そこで消費者としてあらためて、業界の闇を知りました。
—―仲介会社が他社に情報を出さず、買い取り(両手取引)に持ち込むために売却機会を制限する行為。売主の利益よりも自社の利益を優先する、いわゆる「囲い込み」ですね。
はい。「なんなんだ、この業界は!」と心底思いました。グループ会社と信じて任せた結果、気づかないうちに1,000万円近く安く売ることになってしまった。人生における大きな資産を一瞬で奪われたことに、強い憤りを覚えました。
ただ同時に、「自分もかつて同じような不安を与えていた側だった」と気づいたんです。被害者としての怒りと、自分自身への怒りと、二重にショックでしたね。
もう、自分に嘘をつきたくない
——囲い込み被害を経験したことで、再びキャリアを変える決断をされたのですね。
このまま同じことを続けるのは違うと思いました。「この業界の構造そのものを変えたい」と思って、囲い込みをしないことをポリシーにしている会社を探して転職しました。
実際に働いてみると、お客様に誠実に向き合うことに対して、初めて「これでいいんだ」と思える感覚がありました。結果もついてきて、「やっぱりこの考え方は成立するんだ」と。
――しかし、そこでも再び違和感が。
会社が上場してから、「お客様のため」よりも「利益」が優先されていく空気を感じはじめるようになって、このままここにいるのは違う気がしました。
出世の道もあるとは思いましたが、それよりも「自分に嘘をつかないこと」を優先したんです。
正直であることが評価される会社へ
——そして、さくら事務所グループへ。
2020年4月、ちょうど、世の中が一気にコロナ禍に突入したタイミングでした。最初は、グループ会社である不動産仲介会社「らくだ不動産」のエージェントとして入社したんです。
――らくだ不動産で実際に働いてみて、どのような違いを感じましたか?
一番大きかったのは、「正直であること」が前提になっていることでした。
これまでの営業では、「どうやって成約につなげるか」が常に頭の中にありましたが、らくだ不動産では違います。「お客様にとって本当に最適な選択は何か」を起点に考える。
その結果として、「今回は売買をやめた方がいいと思います」とお伝えすることもあります。
――それは簡単なことではないですよね。
もちろん簡単ではないです。ただ、それを積み重ねていくと、お客様との関係性がまったく変わっていくんです。
短期的には売買に繋がらないこともありますが、その代わりに信頼が積み上がっていく。その信頼が、別の形で戻ってくることも多い。結果として、ご紹介をいただいたり、長くお付き合いが続いたりするようになりました。「正直にやる方が、結果に繋がる」というのは、理想論ではなく実体験です。
人を幸せにした数だけ、会社は成長する
——他にも、さくら事務所グループに入って印象的だったことはありますか?
さくら事務所グループのみんなは、「何のために仕事をしているのか」が、驚くほど明確だったことですね。「売上は目的ではなく、あくまで結果である」そして「人を幸せにした数だけ、会社は成長する」という考え方が、言葉だけでなく行動として徹底されていました。
私が心の奥で信じてきた価値観を、本気で体現している人たちがここにいたんです。
——その出会いが、大きな転機になったと。
そうですね。「さくら事務所グループを、もっと本気で伸ばして多くの人に知ってもらいたい」「人生をかけてもいい」そう思えるようになりました。
仕事の価値観が180度変わった瞬間
――直彌さんと言えば、マンション管理コンサルタントという一面もありますよね。
はい。入社前に代表の大西さんと、当時の執行役員でマンション管理コンサルタントの土屋さんから呼び出されました。
そこで、こんな提案を受けたんです。「マンション管理士の資格、持ってるよね? 不動産エージェントをやりながら、半分はマンション管理コンサルタントとしてやってみない?」って。
こうして、らくだ不動産の不動産エージェントとさくら事務所のマンション管理コンサルタントを兼務する形で、両方の領域に関わることになりました。当時としては前例のない働き方であり、いわば第1号のような立ち位置だったといいます。
——前例のない働き方に、不安はなかったのですか?
「やってみたい」という気持ちのほうが強かったですね。
もともと、マンション管理の仕事に対しては、不動産取引に密接に影響しており、人の生活に直結する中で、不動産取引との連携が希薄であることや業界全体に課題がある印象を持っていました。だからこそ、その経験を業界の発展に活かせるのであれば、やる意味があると思ったんです。
——前職(管理会社)の経験を生かして、マンション管理コンサルティングでもすぐ仕事ができたのですか?
いいえ、むしろ真逆でした。マンション管理会社の仕事とコンサルティングの仕事は、まったくの別物です。
管理会社に勤めていた私にとって、コンサルティングは未知の領域でしたし、立場としても、両者は相反する関係になることもあります。
――相反する関係、というと?
例えば、大規模修繕工事のように何億円ものお金が動く場面では、管理会社側には「これは自分たちが受注を目指す案件だ」という意識が強くなります。
一方でマンション管理コンサルタントは、管理組合、つまり居住者の側に立つ存在です。
「そもそも、この工事は本当に必要なのか」「この費用は適正なのか」
そういった前提から問い直していくのが役割です。
――実際に現場を見たときの印象はいかがでしたか?
衝撃でした。右も左も分からない中で、土屋さんの現場に同行したのですが、その仕事の広さに圧倒されました。
長期修繕計画の見直しや、修繕積立金の適正化、大規模修繕工事の支援、さらには建築チームと連携して行う建物や設備の瑕疵調査・補修など。扱う領域がとにかく広いんです。
――かなり高度で専門的な仕事ですね。
それだけではありません。土屋さんは、管理組合の方々の話を本当によく聞くんです。
しかも、管理会社と対立するのではなく、同じゴールを目指すパートナーとして関係を築くサポートまでしていく。その姿勢を見たときに、「こういうやり方があったのか」と強く感じました。
――これまでのご経験と重なる部分もあったのでは?
これまで不動産の仕事で感じてきた違和感やモヤモヤが、一気に腑に落ちた瞬間でした。
マネジメントへの転機
——2022年にはさくら事務所のマネージャーに就任しています。その経緯を教えてください。
代表の大西さんと1on1をしていたとき、コンサルティング事業部長就任の話をいただきました。
その場でかけられた言葉は、今でもはっきり覚えています。
「あなたがどれだけ頑張っても1人分。しかし、あなたと7割同じ価値観を持つ人が3人いれば、組織としては2.1倍の力になる。あなたはどっちを選びますか?」
——非常に示唆的な問いですね。
それを聞いたときに、「ああ、自分がやるべきはこっちだな」と。自分一人で成果を出すことよりも、自分の考えや経験を広げていくことのほうが、より大きな価値になると感じたんです。
——実際にマネジメントを担ってみて、いかがでしたか?
半年単位で役割が変わり、そのたびに見える景色が大きく変わっていきました。考える対象も、個人の成果から組織全体へと広がっていったんです。
「利益とは何か」「持続可能とは何か」「仲間が幸せに働ける状態とは何か」
そうした問いに向き合う中で、2025年にさくら事務所・らくだ不動産の副社長に就任した頃には、経営そのものが非常に面白いと感じるようになっていました。
挫折してきたからこそ、今がある
——2026年4月には、グループの代表取締役社長に就任しました。これまでを振り返って、どのように感じていますか?
振り返ると、挫折ばかりの人生だったと思います。病気も経験しましたし、働きすぎで家庭もうまくいかなかった時期がありました。不動産取引で1000万円近くの大きな損失も出しています。
ただ、それらすべてがあったからこそ、今がある。そう考えると、自分はむしろ「恵まれていた」と感じています。
——ネガティブには捉えていないのですね。
はい。課題の多い不動産業界において、実際に失敗してきた自分だからこそ、伝えられることがあると思っています。同じように苦い経験をした方にも、これから不動産と向き合う方にも、自分にしか届けられない言葉がある。そう信じています。
——今後、挑むべきことがたくさんありそうですね。
はい。きっと何度も壁にぶつかると思います。
それでも、失敗の中で感じた「小さな違和感」を見過ごさず、流さず、すべてを糧にしていきたい。そして、死ぬまで理想を追い続けていくつもりです。
正直に、いい仕事をして、社会を変える
――直彌さんが社長として、これから目指していることを教えてください。
究極の目標は、不動産を通じて、1人でも多くの人を幸せにすることです。
まずは、情報の非対称性によって、誰かが損をしたり、不利な取引をしてしまうという構造そのものを変えていきたいと考えています。
そのためには、さくら事務所グループのサービスを社会のインフラにしていかなければならない。
たとえば、住宅を売買する際にホームインスペクションが当たり前に選択肢として提示されること。マンション管理においても、管理会社と管理組合だけでなく、第三者の専門家が関わる“三位一体の体制”が標準になることを目指しています。多様な選択肢がある中で、ご依頼者様自身が納得して最適な選択ができる状態をつくりたいんです。
さらに、ホームインスペクションやマンション管理コンサルティングを社会インフラにしていくためには、「自分たちだけが正しい」という姿勢では足りず、業界全体を底上げしていく必要があります。
そこまでやって初めて、本当の意味で人を幸せにできると思うんです。
――さくら事務所グループにとって、今もっとも大切なものは何でしょうか。
それは「仲間」です。
「自分はこれから先、一人でも多くの人を幸せにして、人と不動産のより良い関係をつくっていくんだ」と、そこにコミットしていきたいと、本気で思う仲間の存在が不可欠だと考えています。
――共に働く仲間に求めることはありますか?
山本:シンプルに2つです。1つは、結果を出すこと。もう1つは、仲間から信頼されること。
——「結果」とは売上のことですか?
売上は当然重要ですが、それだけではありません。本質は「どれだけ人や社会を幸せにしたか」です。
どんな環境や事情があったとしても、お客様に価値を提供できているかどうかは、最終的に売上に表れます。つまり売上は、自分たちの仕事が世の中にとって本当に必要とされているかを示す、嘘のない指標なんです。
会社を成長させるためというよりも、自分たちが社会に必要とされ続ける存在であるために、「幸せにできた件数」にコミットし続けることが欠かせないと考えており、その結果が売上という指標に表れるものだと思います。
——「仲間から信頼される」とはどういうことでしょうか?
うまくいかないときや、プレッシャーに押しつぶされそうなときでも、自分を鼓舞して立ち上がり続ける。任せられた役割から逃げずにやり切る。そうした姿勢を持ち続けることが、結果として周囲からの信頼につながっていくのではないかと考えています。
——学歴やこれまでのキャリアは重視しますか?
いわゆる“きれいなキャリア”である必要はないと考えています。
それよりも、
・苦労してきた人
・挫折と向き合ってきた人
・違和感を流さず行動してきた人
そうした人のほうが、さくら事務所グループには合っていると思います。
私自身の体験からもそうですが、人を強くするのは葛藤や挫折です。その場数をどれだけ踏んできたかは、人生やキャリアにおいて非常に大きな意味を持つと感じています。
「失敗してきた人生でよかった」
そう言い切る山本の言葉には、すべての経験を「力」へと変えてきた、確かな歩みがありました。
