中古マンションを内見するとき、見逃せないチェックポイントのひとつが長期修繕計画書です。
長期修繕計画書とは、「将来予想される修繕工事等を計画し、必要な費用を算出し、月々の修繕積立金を設定するために作成するもの」です(国土交通省「長期修繕計画作成ガイドライン(平成20年6月)」より)。
資産価値を維持するために長期修繕計画書は必要不可欠で、国土交通省の「長期修繕計画作成ガイドライン(平成20年6月)」で以下のように説明されています。
マンションの快適な居住環境を確保し、資産価値の維持・向上を図るためには、建物等の経年劣化に対して適時適切な修繕工事等を行うことが重要です。そのためには、適切な長期修繕計画を作成し、これに基づいた修繕積立金の額を設定し、積み立てることが必要です。
今の修繕積立金額から値上げされる
内見時の修繕積立金から値上げされることは、中古マンションでは珍しくありません。
多くのマンションで、数年ごとに修繕積立金を値上げすることで、必要な修繕費をまかなうことができる『段階増額積立方式』を採用しています。国土交通省「平成30年度マンション総合調査」によると、平成22年以降に完成したマンションの67.8%が段階増額積立方式を採用しているようです。
さらに、ここ数年は工事費が高騰しているため、以前の計画よりも高額な修繕費が必要になっているマンションも多く存在します。
内見では長期修繕計画書を見なさい
中古マンションの資産価値に重要な意味をもつ長期修繕計画書は、内見時に見ておくべきポイントのひとつです。
長期修繕計画書には、『将来不足する修繕積立金の金額』『不足が生じないために必要な修繕積立金の値上げ額※』などが記載されています。※管理会社によっては、記載されていない場合もあります。
内見時には、特に『不足が生じないために必要な修繕積立金の値上げ額』をチェックしておきましょう。内見時に将来の修繕積立金を把握しないと、その中古マンションの購入を正しく検討することはできません。10年後に4万円になるか3万円に収まるかで、購入の意思決定を大きく左右するはずだからです。
ちなみに、住宅ローンとして月々1万円を返済すると借入可能額は約340万円になりますので、1万円の差を馬鹿にはできません(返済期間35年、金利を固定金利水準の1.26%で設定)。プラス1万円を修繕積立金にあてることは、購入予算を340万円プラスするのと、同等の効果があるといえます。
実例紹介
当社仲介による買主様の実例を紹介します。内見時に長期修繕計画書をチェックしながら、アドバイスさせていただきました。
最初にご内見いただいたのが、以下の中古マンションでした。
- 物件の概要:
築11年・総戸数31戸・専有面積71㎡ - 管理費:
19,867円(267円/㎡) - 現在の修繕積立金:
24,000円(334円/㎡) - 築20年目の修繕積立金(予定):
36,600円(510円/㎡)
長期修繕計画書をチェックしたところ、管理費・修繕積立金の合計額が築20年目に約57,000円と高額になるため、買主様はこの中古マンションの購入を見送られました。小規模マンションはスケールメリットが効かないため、管理費・修繕積立金ともに割高になりやすい傾向をもっています。そのため、100戸以上の比較的大規模な中古マンションに絞って物件探しを進めました。
最終的にご購入いただいたのが、以下の中古マンションでした。
- 物件の概要:
築11年・総戸数307戸・専有面積72㎡ - 管理費:
15,033円(207円/㎡) - 現在の修繕積立金:
17,000円(237円/㎡) - 築20年目の修繕積立金(予定):
29,700円(410円/㎡)
管理費・修繕積立金ともにスケールメリットが効くため、合計額は約45,000円と先ほどの中古マンションよりも割安になっています。
※比較した中古マンションは新築時の分譲会社が同じで・同じ管理会社による管理です。
買主様は最初の物件も気に入られていましたので、何も知らなければ購入されてたかもしれません。その場合、引き渡し後の管理組合の総会で、値上がり計画を知ることになるでしょう。大きな不安を抱えてしまったり、一生の資金計画に影響を与えられたりすることになるかもしれません。
長期修繕計画書で築20年目の修繕積立金を把握されたことで、正しく検討でき、最終的に納得・安心できる購入を買主様は実現できました。
ただし、長期修繕計画書を鵜吞みにしてはいけません!
一方で、長期修繕計画書を100%信頼することも危険です。
例えば、作成年度が古いと信頼性は著しく低下するでしょう。築20年の中古マンションで新築当時から長期修繕計画書の見直しが行われていないようなケースもありますが、国土交通省「長期修繕計画作成ガイドライン(平成20年6月)」には、以下のような記載もあります。
長期修繕計画及び修繕積立金の額を一定期間(5年程度)ごとに見直しを行う規定を定めることも望まれます。
長期修繕計画はあくまで計画ですので、内容が変更されることや、計画通りに進まない可能性も否定できません。長期修繕計画は購入判断のいち材料とし、余裕のある資金計画を心掛けるようにしましょう。